優れた機械特性を持つプラスチック

近年、金属からプラスチックへの代替が進むにつれて、高強度の素材が求められてきています。要求される機械強度と耐久性に応じて最適なプラスチックを選択することが必要です。エンズィンガーの豊富な素材群から選択することで、強度に優れた製品を作製することが可能です。

 

エンズィンガー素材の特徴とメリット

  • 30MPaから600MPaを越える引張強度まで、幅広い範囲の素材に対応
  • 優れた機械強度を有するPEEK樹脂の豊富なグレード郡をご用意
  • 射出成形品よりも高結晶化度・高強度の押出素材

【プラスチックの強度のイメージ】
プラスチックを引っ張ると左図のようになります。

  • X軸(ε):伸び (%) F:伸び方向
  • Y軸(σ):強度 (MPa) S:強度上昇方向
  • T方向の領域:伸びに優れた耐衝撃性プラスチック
  • R方向の領域:剛性に優れたプラスチック

プラスチックの機械特性には様々な項目がありますが、基本的な機械特性として以下に挙げられます。

  • 強度:応力が加えられたときの抵抗挙動を表す指標
  • 剛性:変形に対する素材の耐性。弾性率により示される
  • 硬度:圧縮応力が負荷され変形を伴うときの耐性
  • 靱性:応力により材料に蓄えられる総エネルギー。耐衝撃性の尺度

【試験例(引張試験)】
これらの特性は、JIS、ISO、ASTMなどの規格化された試験にて調べることができ、あらゆる素材を比較することができます。
例えば、右のグラフはDIN EN ISO 527に従った引張試験です。この試験により、引張強度、引張伸び、引張弾性率を取得することができます。

【グラフの説明

  • 赤色:低伸びの脆いプラスチック
    (例:PI、繊維強化素材)
  • 青色:靭性と硬度のあるプラスチック
    (例:PA、POM)
  • 黄色:柔らかく弾性のあるプラスチック
    (例:PE)

[X軸]

  • εB:引張伸び
  • εR:引張破断伸び
  • εS:引張降伏伸び

[Y軸]

  • σB:引張強度
  • σR:引張破断強度
  • σS:引張降伏強度


機械特性の測定について


エンズィンガーはすべての切削加工用素材について機械特性を試験しています。データ値はそれぞれのデータシートに記載されています。これらの情報を利用して素材を比較することができます。

なお、エンズィンガーが提供するデータと他のソースからのデータを比較すると、異なる場合があります。理由として、試験方法、試験速度、試験片の違いが原因と考えられます。エンズィンガーは、切削加工用プラスチック素形材(丸棒、板、チューブ材など)の形状や試験を定めたヨーロッパ標準規格:DIN EN 15860に沿って試験を行っています。エンズィンガーが提供するデータは押出素材から切削加工された試験片を利用して得たものです。押出成形品と射出成型品とでは、結晶化度と繊維の方向が異なるため、値に決定的な差が生じます。(詳細は、以下の引張強度にて説明します。)


強度-引張強度と曲げ強度(機械的応力)

引張強度と曲げ強度は、プラスチックをを比較するときに最もよく使用される項目です。高い引張強度を持つエンズィンガーのプラスチック素材例は、次の通りです。

 

注:炭素繊維やガラス繊維で強化することで、一般的に引張強度と曲げ強度が向上しますが、射出成型品と比較すると効果は限定的です。


押出成形素材の機械強度の特徴


押出成形、射出成形の成形方法の違いにより機械物性に違いが生じてきます。射出成形品よりもエンズィンガーのフィラー無添加の押出成形品のほうが、結晶化度と密度が高い傾向にあります。そのため、射出成形品よりも高強度の物性が得られます。(引張強度、弾性率ともに高くなります。)以下にTECAPEEK naturalを例として示します。

TECAPEEK natural
PEEK樹脂 (ナチュラル品)

物性項目 (左:射出成形品 右:押出成形品)

  • 比重 1.30、1.31
  • 引張強度(MPa):100、116
  • 引張弾性率(MPa):3600、4200
  • 引張伸度(%):25、15

反対に、強化繊維配合の素材同士を比較すると、押出品は繊維が強く配向しないため、射出成形品のほうが引張強度が高い傾向なります。 以下にTECAPEEK CF30 blackを例として示します。

TECAPEEK CF30 black
PEEK樹脂 + 30%炭素繊維強化

物性項目 (左:射出成形品 右:押出成形品)

  • 比重: 1.41、1.38
  • 引張強度(MPa)240、122
  • 引張弾性率(MPa):2300、6800
  • 引張伸度(%):1.5、7.0

配向について

  • 押出成形品:カットして切削加工して調製した試験片繊維やポリマーの配向はランダムになっている。そのため引張強度は低くなる。
  • 射出成形品:試験片樹脂の流動方向に繊維とポリマーが配向し、同じ向きで試験が行われる。強い配向により引張強度が高くなる。

剛性‐引張弾性率と曲げ弾性率

剛性は引張弾性率によって表されます。剛性が高いエンズィンガーの標準グレードには、TECASINT 4111 (PI)、TECAPEEK(PEEK)、TECAST(PA 6 C)、TECAFORM AD(POM-H)、そしてTECAPET(PET)などがあります。

標準グレードよりも高弾性な炭素繊維、ガラス繊維配合強化グレードもご用意しています。

圧縮強度

圧縮強度[MPa]


圧縮強度は、プラスチックの短期的な応力負荷特性を示します。圧縮試験では、2つのプレートの間に保持された円筒状または立方体の試験片に応力を負荷させ、測定される圧縮応力と変形量を計測します。 
 
熱可塑性プラスチックの場合、圧縮破断強度は必ずしも測定されません。試験片は変形をともなうため明確な破壊が起きないからです。また、どの用途においても、実際に大きな変形が起こった場合は使用することができませんので、破壊する強度は参考となりません。これらの理由から、通常、圧縮負荷は破壊時でなく、所定の変形量(通常1%、2%、または10%)で計測されます。物性データの値を比較する前に、試験条件を確認することが重要です。
 
なお、炭素繊維やガラス繊維を配合することで、圧縮強度は向上します。長期応力による変形を定義するクリープ特性も向上すると考えられますが、短期間では効果は確認されません。長期の時間が必要になります。

素材例:

靱性-衝撃強度

強度/応力[MPa]
 

衝撃強度はシャルピー衝撃試験またはアイゾット衝撃試験のいずれかによって測定されます。小さなブロック型試験片に高速で振り子を衝突させ、破壊される際に吸収されるエネルギーを計測します。このときの値が大きいほど、耐衝撃性が高いことを意味します。試験片が破壊されない場合、試験片にノッチ(切り込み)を入れてより厳しい条件にて試験します。

硬度

ボール圧入硬度[MPa]


表面硬度を測定する方法は、多くの方法があります。ロックウェル硬度、ショア硬度、ビッカーズ硬度などありますが、エンズィンガーでは、「ボール圧入硬度」を採用しています。金属ボールを所定の圧力と時間で素材に押し込み、素材のくぼみから硬度を計測します。
 
ガラス繊維、炭素繊維を配合した強化グレードは高い硬度となります。高硬度なエンズィンガーの素材郡は次の通りです。