「射出成形では、金型の温度を変えると結晶化度が変わると聞きました。押出成形でつくられた板・丸棒では、結晶化度にどのような傾向がありますか。」といったお問い合わせをいただきます。
熱可塑性プラスチックスには、結晶性樹脂と非晶性樹脂の二種類があります。
結晶性樹脂にのみ、「結晶」と呼ばれる規則構造を伴ってポリマー鎖が配列(配向)した領域が存在します。
一方で非晶性樹脂には、そのような規則的な構造はなく、糸くずが絡み合ったように無配向・ランダムな状態になっています。
結晶化度とは、プラスチック固体の結晶領域(C)と非晶領域(G)との全体の中で、結晶領域(C)が占める重量の割合を算出したものになります。
結晶化度=C/(C+G) X 100%
上式にあるように、%で表記されます。
結晶性樹脂は、結晶化度が100%になることはありません。もっとも結晶化度の高いエンプラとされるポリアセタール樹脂(POM)でも80%程度です。 なぜならば、プラスチックの結晶は長いポリマー鎖が折りたたまれた構造を持つため、折り曲がっているポリマー鎖部分は必然的に非晶領域になってしまうからです。
プラスチックが結晶化する過程では、二つの温度を考慮する必要があります。一つは、融点であり、もう一つはガラス転移温度です。 融点を下回ると結晶性樹脂では結晶化が進行し、ガラス転移温度を下回るとポリマー鎖が自由に動くことができなくなるために結晶化できなくなります。
射出成形の結晶化度は、押出成形時よりも低くなります。
押出成形時と比べて、融点からガラス転移温度までプラスチックの温度が降下する時間が短く、結晶化の時間が短いことが原因と考えられています。
また、ガラス転移温度以上に加熱する「アニール処理」は、内部応力を緩和し、切削加工前後でのソリや歪みが生じないように行うものです。この処理によっても、結晶化度は若干上昇します。プラスチック自体の構造は結晶化している部分で支えられていて、形は一切変化しませんが、非晶領域ではガラス転移温度以上であるのでポリマー鎖が熱エネルギーによって動くことにより、部分的に構造の組織化が起きて結晶領域が成長します。しかし、結晶領域で固定されているポリマー鎖の動くことのできる範囲には限界があるので、大きく結晶領域が成長することはあり得ません。
結晶化度は、結晶性樹脂によって異なりますし、形状によっても異なります。上述したように、押出成形品の部位によっても異なります。冷却速度がゆっくりであることから、射出成形よりは結晶化度は高くなる傾向にあります。
ちなみに、PEEK樹脂では30%〜45%の結晶化度です。
簡易的に結晶化度を比較する方法には、密度を測定する方法、XRD法、IRやラマンによる測定法などがあります。
エンズィンガーの押出素材エンズィンガーでは、PEEKをはじめとして、結晶化度の高い、寸法安定性と強度に優れた素材を提供しています。
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