押出成形と射出成形の成形方法の違いにより、機械物性に違いが生じます。
標準的なPEEK樹脂:Victrex®社のPEEK 450を例にとって比較してみましょう。
エンズィンガーのTECAPEEKは、このグレードを用いて押出成形しています。
射出成形品による物性値と押出製品による物性値を比較すると以下のようになります。
【TECAPEEK natural 無添加PEEK樹脂】
物性項目 | 射出成形品 | 押出成形品 |
比重 | 1.30 | 1.31 |
引張強度:MPa | 100 | 116 |
引張弾性率:MPa | 3700 | 4200 |
引張伸度:% | 45 | 15 |
曲げ強度:MPa | 165 | 175 |
曲げ弾性率:MPa | 4100 | 4200 |
上記のように、無添加PEEK樹脂の場合は、押出成形品の方が良好な強度が得られます。
今度は、炭素繊維30%配合したグレードで同じ比較をしてみましょう。
【TECAPEEK CF30 PEEK樹脂+30%炭素繊維強化】
物性項目 | 射出成形品 | 押出成形品 |
比重 | 1.41 | 1.38 |
引張強度:MPa | 260 | 112 |
引張弾性率:MPa | 26000 | 6000 |
引張伸度:% | 1.6 | 10 |
曲げ強度:MPa | 380 | 188 |
曲げ弾性率:MPa | 23000 | 6000 |
圧倒的に射出成形の方が強度が高くなっています。炭素繊維を添加したことによる補強効果が射出成形の方が大きく表れています。
樹脂の流動方向に繊維とポリマーが配向し、同じ向きで試験が行われます。
そのため、強い配向により引張強度が高くなる傾向にあります。
射出成形では、高い圧力で金型内に樹脂を流動させるため、樹脂や添加剤の配向を生じます。特にガラス繊維や炭素繊維のようなアスペクト比の大きい添加剤を加えた場合は、流動方向による配向効果が大きくなります。
プラスチック製品の異方性(方向により特性が変化すること)の原因は、樹脂と添加剤の配向です。図に示したのは、JISの引張試験片の金型図面です。射出成形では赤矢印で示した方向に樹脂が流動し、同じ方向に樹脂と添加剤が配向します。試験時の力かがかかる方向に補強されるため、良好な物性値を得ることが出来ます。基本的に、物性値が良くなる方向に配向した試験片が得られるようにデザインされています。
配向に加えて、樹脂は金型内で急速に冷却されるため、成形品の結晶化度は低くなる傾向にあります。結晶化度は、機械特性、電気特性等に影響を及ぼし、特に結晶化速度が遅いPET樹脂やPEEK樹脂で顕著に影響が見られます。
繊維やポリマーの配向はランダムになっています。
そのため引張強度は低くなる傾向にあります。
押出成形は、射出成形と異なり、ゆっくりと連続的に成形する方法であり、流動速度が遅いため樹脂や添加剤の配向は緩和されやすく、等方性の素材に近づけることができます。
押出成形では、ゆっくりと固化させるので、結晶化度が高くなります。これにより剛性と強度が増加し、靱性がやや低下します。
まとめると、成形方法の違いにより以下の傾向になります。
試験片の成形法の違いにより物性値が大きく異なります。
非強化品 | 非強化品 | 繊維強化品 | 繊維強化品 | |
射出成形 | 押出成形 | 射出成形 | 押出成形 | |
引張強度 | 低 | 高 | 高 | 低 |
引張弾性率 | 低 | 高 | 高 | 低 |
引張伸び | 高 | 低 | 低 | 高 |
結晶化度 | 低 | 高 | 低 | 高 |
寸法安定性 | 高 | 高 | 低 | 高 |
エンズィンガーでは、PEEKをはじめとして、寸法安定性と強度に優れた押出素材を提供しています。
詳細の特性については、以下のリンクよりご覧ください。
DIN EN 15860への移行に伴い、エンズィンガーでは、「押出素材」から切削加工によりテストピースを切り出し、物性項目を測定することになりました。従来の射出成型による測定値からの変更となるため、同じ製品であっても物性値が異なります。
こちらのDIN EN 15860に適合した物性表を以下に公開しております。
詳細の物性・特性につきましては、下記お問い合わせフォームよりお問合せください。